春のある土曜日。
職場の仲良しメンバーで企画したお花見が、近くの公園で開催された。
会社全体のイベントではなく、気心の知れたメンバーでの小規模な会だったから、
準備も会話もざっくばらん。幹事役の僕は、朝から買い出しや場所取りに走り回っていたけれど、
桜が見事に咲き誇る中での宴会は、努力の甲斐あってとてもいい雰囲気だった。
参加者は男女合わせて10人ほど。
女性陣は、総務の美咲さん、企画部の明るい真理ちゃん、おっとり系の新人・遥ちゃんなど、個性派揃い。
夕方から始まった花見は、缶ビールとチューハイが次々に空いていき、みんなだんだんテンションが高くなっていった。
そして――事件は、日が暮れてあたりが暗くなり、桜がライトアップされる頃に起きた。
「じゃあさ、ここらでちょっとゲームしよーよ!」
酔っ払った真理ちゃんが、にやにやしながら声を上げた。
「定番だけど、負けた人は罰ゲームってことで!」
何のゲームかも分からないまま、全員でジャンケン。
……結果、負けたのは、僕だった。
「うわー、幹事に罰ゲームとか、かわいそう?」
「いやいや、幹事だからこそでしょ〜!」
「じゃあ罰ゲームは……」
そこで、美咲さんがぽつりと。
「“裸踊り”、どう?」
一瞬静まり返る。
そして――
「出た!それ!」
「でも全裸は可哀想じゃない?」
「いや、夜だし暗いし、バレないって〜」
「せーのっ!」
「ぬーげ!ぬーげ!ぬーげーっ!!」
まさかのコール。
笑いながらも全員が手拍子を始める。男子すら笑っている。
「ちょ、ちょっと待って! ほんとに!?」
「いけるって!幹事、脱ぐ覚悟も大事だよ〜!」
「…見ないようにするから!たぶん!」と遥ちゃん。
たぶん、って何(苦笑)
止めるタイミングを完全に失った僕は、桜の下、レジャーシートの真ん中に立ち、
仕方なくジャケットを脱ぎ、シャツを脱ぎ、ついにズボンに手をかけた。
「うぉ〜〜〜!ほんとに脱ぐぞ!後悔すんなよー!」
みんなが沸き上がる中、最後のトランクスを下ろすと、
夜風が全身を撫でた。
「きゃーーー!!」
「ほんとに全裸!!」
「うわ…見えちゃった…///」
「お尻、お尻ー!ほら、丸見え!!」
男子の笑い声に混じって、女子たちの歓声とざわめき。
僕はとっさに手で前を隠し、くるっと背を向けた――が、それが悪手だった。
「おおー!背中からの!お尻きたー!」
「なにあのプリっとした形!」
「ライトアップされて、余計くっきりしてるんだけど(笑)」
お尻、完全に観察されてる。
手で前を隠しても、後ろからはなす術がない。
逃げ場もない。
むしろ、女子たちは普通にスマホを構えはじめている(撮影禁止とは言ったけど、信用できない…)。
「ライトくん、意外と肌キレイだね」
「ほんと、ムダ毛処理してる?」
「お尻だけ見せるショー、これ定期にしよう!」
羞恥心のピーク。顔から火が出そうだった。
その後、何とか服を着てシートに戻ったものの、女子たちはニヤニヤが止まらない。
遥ちゃんが、おにぎりを差し出しながらぽそっと言った。
「…あの、今日のこと、ちゃんと目に焼きついちゃいました」
「でも、嫌じゃなかったです。むしろ……かわいかったです」
え、それってどういう――
そう聞き返す暇もなく、彼女はさっと顔を背けて他の女子と笑いながら談笑を始めた。
僕の“お尻見られ花見事件”は、その後しばらく社内で語り草となり、
女子たちから「また来年もね!」とからかわれ続けたのだった。